2006年12月研修記録
★CASE-J(Candesartan Antihypertensive Survival Evaluation in Japan)に学ぶ
・日本人の平均寿命は伸びてきていたが、2005年は平均寿命が低下した。この原因は高齢者の肺炎と心血管イベントの増加である。
・CASE-Jは21世紀における降圧療法のエビデンスを確立するため、日本人の、日本人のための大規模臨床試験が実施された。
・日本で最も使用されているCa拮抗剤であるアムロジピン(ノルバスク、アムロジン)もしくはARB製剤であるカンデサルタン(ブロプレス)をベースに日本人高血圧患者をどのように改善するかを検討するため、4728例が登録され、2群に分けられ、観察期間は平均3.2年で、症例追跡率は97%を超えるなど、極めて質の高い試験となった。欧米のエビデンスに頼らざるを得なかった時代から脱却し、日本の臨床に即したエビデンスに基づく新たな高血圧治療のスタートを意味する。また、医師主導の臨床試験であり、企業の関与がないため、信頼性の高いものである。
・イベント(脳血管系、心、腎及び血管)の発生は、両群に差はなかった。むしろ、カンデサルタン群がアムロジピン群でよりも収縮期血圧が2mmHg高いままの(収縮期血圧が2mmHg高くなると、脳卒中の死亡率を6.4%増加させる)血圧差が続いていたことを考慮すると、現代の日本人の降圧療法にはRA系の抑制による臓器保護作用が必要であることが示唆された。
・カンデサルタンは、より長期に使うことでイベントの発現が減少していくこと、高齢者や腎機能障害例、そして肥満例でイベント発現リスクが低下することなどが明確になった。また、近年、著しい増加が懸念されている糖尿病の新規発症は、カンデサルタン群で発症リスクが36%低下した。
・経年的イベント発現率に変化をみると、カンデサルタン投与群では、経年的にイベント発現率が低下していくことを認めた。累積イベント発現率の曲線も、途中で交差(最初はアムロジピン投与群の方がイベント発生は低い)している。RA系抑制による臓器保護や臓器障害のリセットが発揮されたことを示唆するものと考える。
・世界的にメタボリックシンドロームの増加が問題になっている。日本のメタボリックシンドロームは、欧米に見られる肥満度の高い糖尿病型優位型と異なり、肥満度が軽い高血圧型優位型である。CASE-Jにより、この高血圧優位型メタボリックシンドロームの生命予後をカンデサルタンが改善し、それに加えて糖尿病の新規発症を抑制することが明らかになった。この新知見は日本や同等の肥満度を有するアジア諸国にとどまらず、欧米諸国の高血圧やメタボリックシンドローム治療ガイドラインに強いインパクトを与えることになる。
・高血圧の発症に関与する因子は、血管リモデリングの亢進や内皮機能障害、脳の交感神経系の過剰活性化、腎の組織障害、さらには、インスリン抵抗性の惹起等が考えられる。しかし、これらのほとんどはアンジオテンシンⅡの活性化が引き金となっている。
・カンデサルタン投与後速やかに約10mmHg低下した収縮期血圧は、カンデサルタンの投与中止により、上昇するが、プラセボと同レベルまで上昇することはなく、中止後2年を経過しても2mmHg低い状態であった。この結果は単に降圧していたから得られたのではなく、アンジオテンシンⅡをブロックした結果として得られたと考えられる。
・CASE-Jの結果より、従来の降圧療法はCa拮抗剤がベースであったが、今後はARBがベースになってくる。また、CASE-Jは2006年10月に福岡県で開催された国際高血圧学会で報告されており、高い評価を得ている。