薬剤師修行ファイルNo.080309:漢方セミナー

2008年2月研修記録
★品質管理に対する取り組みについて【株式会社ツムラ 医薬営業部より】 
・ツムラは原料生薬の80%を中国から輸入(15%は国内、5%は韓国)しており、最近、毒入りギョウザなど中国製品の安全性が問題になっており、ツムラにも漢方は問題ないかとの問い合わせが多くなっている。
・ツムラでは自社基準を設定し、微生物、重金属、ヒ素、害虫、残留農薬等に関して厳密・厳格な検査を実施し、製品の品質と安全性を保証している。中国での原料生薬の調達ルート、検査体制を含めて安全な製品供給へ向けて取り組んでいる。

★わかりやすい漢方医学概論
・現代医学的における漢方診療の役割として、①一般治療の効果を助ける、②一般治療が合わない(副作用などで)症例に漢方薬を使用する、③漢方治療しか、現在も治療法がない疾患に使用することが言われている。
・皮膚科疾患で漢方を使用する場合は、①ステロイドの効果を高める、②ステロイドや抗アレルギー剤では十分な治療ができない症例、③ステロイド治療を希望しない患者などがある。そこで、アトピー性皮膚炎でステロイド中止によるリバウンドで症状が悪化したが、【白虎加人参湯】7日服用でほぼ軽快した。アトピー性皮膚炎には舌診により、【消風散】や【黄連解毒湯】を使用する。また、小児アトピー性皮膚炎には【越婢加朮湯】や【黄耆建中湯】を使用して効果が確認されている。
・消化器外科で使われることが多い【大建中湯】は、消化管運動改善作用、血流改善作用などのほか抗炎症作用も期待されている。また、術後管理を良好にコントロールできるため、イレウスでは第一選択薬になっている。
・PPIでは治療しきれない逆流性食道炎に【六君子湯】を併用すると、1週間ほどで、劇的に症状は改善し、自覚症状は消失した。
・気管支喘息患者でテオフィリンを服用すると、動悸の発現により服薬困難となった。そこで、気虚、水毒、柴胡剤(胸脇苦満がある)を満たす方剤として、【柴朴湯】を服用すると、1ヵ月服用で咳が消失した。
・漢方診療以外有効な治療があまりない疾患として、冷え症と全身倦怠感がある。冷え症には【当帰四逆加呉茱茰生姜湯】や【当帰芍薬散】使用し、全身倦怠感には【補中益気湯】を使用している。

★生活習慣病と漢方
・メタボリックシンドロームの診断基準に内臓脂肪があるが、肥満が原因である。また、内臓肥満を基盤としたインスリン抵抗性が存在することは明らかで、肥満を中心とした危険因子の集積への包括的対応が重要である。
・肥満症に保険適用をもつ西洋薬は、【サノレックス】のみであるが、適用(BMI35%以上)、投与期間(3ヵ月しか使用できない)及び副作用(精神が不安定な患者は、自殺の可能性がある)など問題が多い。また、メタボリックシンドロームの包括的な新薬(西洋薬)が各製薬会社で開発されているが、現時点では市販されていない。
・メタボリックシンドロームの代表的な漢方処方は、【防風通聖散】及び【防己黄耆湯】である。これらは「肥満症」に対して保健が適用されている。それ以外には【大柴胡湯】(堅太り:実証、肩こり、胸脇苦満、便秘)、【桃核承気湯】(水太り:血行不良、気逆<強いのぼせ、精神不安定>、月経異常)、【桂枝茯苓丸】(水太り:血行不良、冷えのぼせ、肩こり、月経異常)を使用している。
・【防風通聖散】は、実証のメタボリックシンドロームではもっとも代表的な方剤である。食毒・水毒を解毒するとされ、体力が充実している体質で、便秘気味、いわゆる肥満重役型の太鼓腹のタイプに適している。作用機序が解明されつつあり、麻黄に含有されているエフェドリンが交感神経終末からのノルアドレナリン放出を増強して、褐色脂肪組織のβ2、β3、α2アドレナリン受容体を活性化する。また、甘草・荊芥・連翹にはカフェイン様作用があり、ホスホジエステラーゼ阻害作用でcAMPの分解を抑制し、ノルアドレナリンの効果を持続させる。臨床的にも、肥満者で体重減少及び基礎代謝の有意な増加、さらに内臓脂肪減少、インスリン抵抗性改善作用がある。ただし、投与に際して、大黄、芒硝といった瀉下作用のある生薬が含まれているため、便秘傾向のない患者には注意する必要がある。
・【防己黄耆湯】は、虚証のメタボリックシンドロームの代表的方剤である。色白でいわいる水太りのブヨブヨした肥満で、疲れやすく、汗が多く、膝関節の腫脹する患者、変形性膝関節症で運動不足の患者などが目標とされている。臨床的には6ヵ月服用すれば、内臓脂肪に有意な改善が認められている。作用機序は明らかではないが、運動療法が困難(眼が悪い、膝が痛い等)な内臓脂肪型肥満症でも有用性が期待できる。
・甘草によって引き起こされる高血圧、浮腫、低カリウム血症は甘草誘発性偽アルドステロン症と呼ばれている。厚労省では1日6~7gまでとしているが、量は関係がなく、体質(遺伝)が原因である。血圧上昇と血液検査でカリウム低下がないか確認しておく必要がある。