薬剤師修行ファイルNo.071011:ニューキノロン系抗菌剤の役割

2007年10月修行記録
★新規キノロン系抗菌薬ガレノキサシン(商品名:ジェニナック)の開発とその特徴【富山化学工業㈱より】
・キノロン薬は1960年代初めにナリジクス酸が開発され、オールドキノロンの時代が始まり、この頃は抗菌域がグラム陰性菌に限られていて、主に尿路感染症に使用されてきた。1980年代になってキノロン骨格にフッ素が導入された(組織移行性が良くなり、抗菌作用が高くなる)フルオロキノロンが開発され、ニューキノロンの時代に入り、グラム陰性菌から陽性菌に広がり、抗菌域の拡大となった。
・ジェニナックは本年10月5日よりアステラス製薬㈱で販売を開始しており、特性は呼吸器感染症において、1日1回投与で高い臨床効果を示すレスピラトリーキノロンである。レスピラトリーキノロンとは、肺炎球菌に対する高い抗菌活性と肺組織への高い移行性の2つの条件を有するニューキノロン系薬である。レスピラトリーキノロンにはオゼックス、ガチフロ、スパラ、アベロックス及びクラビット(但し、高用量使用時)があり、ジェニナックは6番目になる。
・キノロン薬の開発は、キノロン骨格の6位~8位の側鎖にどの化合物を置換させるかがポイントである。ジェニナックは6位にフッ素原子(抗菌活性は高くなるが、毒性が強いため、副作用の要因とも言われている)がなく、7位にメチルイソインドリニル基が炭素-炭素で結合し、8位にジフルオロメトキシ基が置換しているなど、既存キノロン系抗菌剤と異なる化学構造を有している。
ジェニナックの特徴は、呼吸器・耳鼻咽喉科領域の主要起炎菌に適した抗菌活性を有し、また、肺炎球菌及び黄色ブドウ球菌の耐性化を来たし難いという結果を得ている。さらに、薬物動態面でも、大きいAUCと良好な組織移行性を有する。
・抗菌効果をPK/PDパラメータで考えると、キノロン薬は濃度依存性(1回の投与量を多くすることによって効果が増す)薬剤であるため、ジェニナックの用法・用量は1回400mg(200mg製剤のため、2錠)を1日1回経口投与にしている。

★呼吸器診療におけるニューキノロン系抗菌薬の役割
・使い勝ってのよさから抜群の人気を誇る抗菌薬はキノロン系である。それだけに乱用されがちである。よくある間違いが「サワシリンを使ってよくないので、クラリスを使ってみて、よくないのでクラビットに変えてみて---」という発想法である。考えなしに、「効かない」→「広げる(抗菌活性)」という悪いパタ-ンにならないようにして欲しい。特に、かぜ症候群にはキノロン系(効果はあるが、耐性化が心配である)は控えて方が良い。
・抗菌薬の使用で肺炎患者の死亡は、約20分の1に減少したが、1980年以降は死亡が増加している。原因の一つとして、病原菌の耐性化がある。抗菌薬は人類の有用な医療資源であり、耐性化させないため、ニューキノロン系及びカルバペネム系を第1選択薬にしない。この理由はニューキノロン系及びカルバペネム系は耐性化が進んでいないが、第1選択薬とすると、耐性化が進むためである。また、抗菌薬は十分量使用し、短期間とする。なお、第1選択薬にはセフェム系、マクロライド系、ペニシリン系及びテトラサイクリン系などを使用する。
エンピリック治療とは、原因微生物が決定される前に治療を行うことであり、通常感染症の初期治療は多くの場合エンピリック(過去の経験から判断)に行われる。また、ターゲット治療とは、原因微生物が判明した場合、薬剤感受性試験の成績も合わせて参考にしてターゲットを絞って行われる。理想は起炎菌を判明してから、抗菌剤を使用すれば良いが、早期の抗菌剤使用が必要な場合、臨床現場ではエンピリック治療を行う。
・海外での抗菌薬の使用は有効性に重点が置かれているが、日本の抗菌薬の使用は有効性よりも副作用の少ない薬剤に重点が置かれているため、副作用が少なく、相互作用が少ないクラビットが多く使用されている。ただし、PK/PDパラメータ理論で考えると、クラビットの用法・用量は間違っており、1日3回ではなく、1日1回で高濃度(300~400mg)投与が良い。