2007年8月研修記録
★動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2007年版)改訂のポイントとその背景
・日本動脈硬化学会では、動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002年発行)を改訂し、名称も新たに「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」として発表した。今後の医療は「診療」から「予防」が重視されるため、名称変更している。
・LDL-Cに基づく診断と治療を明確にし、冠動脈疾患のリスクを純粋に判断するためにTC値ではなくLDL-Cを用いることにした。また、従来の日本におけるエビデンスを十分に反映させた。
・「高脂血症」を「脂質異常症」という名称に変更。脂質異常症はLDL-C、HDL-C、TGのそれぞれによって診断され、TCは診断基準から割愛された。
・欧米と異なり高HDL-C血症が多いのがわが国の特徴であり、HDL-Cは60~80 mg/dLで動脈硬化疾患が減少しているが、100 mg/dLを超えると脂質異常症を考える必要がある。
・LDL-Cの目標管理値に加えて、一次予防ではLDL-C低下率も重要であり、LDL-C20~30%も治療目標にできる。大規模臨床試験(MEGA Study)によって、LDL-C18%の低下率で33%のイベント抑制効果が認められている。
・脂質異常症の診断基準(空腹時採血)は高LDL-コレステロール血症はLDL-Cが≧140mg/dL、低HDLコレステロール血症はHDL-Cが<40 mg/dL、高トリグリセライド血症はトリグリセライド≧150 mg/dLである。ただし、この診断基準は薬物療法の開始基準を表記しているものではない。また、薬物療法の適応に関しては、他の危険因子も勘案し決定されるべきである。
・一次予防と二次予防(冠動脈疾患あり)では薬物治療の考え方が異なる。一次予防・二次予防ともに、まずは「生活習慣の改善」が基本となる。薬物治療については、一次予防では患者さんのリスクに応じて薬物治療を考慮し、二次予防では生活習慣の改善と同時に薬物治療を開始する、といったように「メリハリのある治療」が推奨されている。
・一次予防の危険因子として、LDL-C以外には加齢(男性≧45歳、女性≧55歳)、高血圧、糖尿病(耐糖能異常を含む)、喫煙、冠動脈疾患の家族歴及び低HDL-C血症(<40mg/dL)がある。
・脂質異常症の管理目標値は一次予防LDL-C(危険因子0の場合は<160mg/dL、危険因子1~2の場合は<140mg/dL、危険因子3以上の場合は <120mg/dL)、二次予防は<100mg/dLである。また、HDL-Cは ≧40mg/dL、TGは<150mg/dLである。
★高脂血症治療の方向性
・海外のガイドラインが治療ガイドラインであるのに対して、今回のガイドラインは予防ガイドラインとして出された点が大きく異なっている。数値に囚われて薬物治療ばかりに偏ってしまうことは好ましくない。
・今回のガイドラインを広く普及させるために、学会主導で各地の医師会、保健師への啓蒙活動、一般市民向けの市民公開講座を多く開催していくことが必要である。
・ガイドラインは進歩させる必要があり、危険因子の個数でリスクを分けるのではなく、今後10年間の冠動脈疾患死の可能性が何%かといったことで分けていく作業が必要になる。
・動脈硬化疾患には男女差があり、発症率は男性が多いが、発症後の生命予後は女性の方が悪いのが特徴である。ガイドラインでは男女差はないが、今後は男女差も検討していく必要がある。
・薬物治療が開始されると同じ薬を数年間服用しているのが現状であり、メリハリのある治療が必要である。また、スタチンを服用していてもコレステロールが低下しない患者には、永平寺で数ヶ月修行(菜食)することで20%コレステロールが低下する。食事の改善は非常に重要である。