2007年5月研修記録
★急性期進行脳卒中の病態と抗血栓療法
・近年、脳梗塞の中でも急性期に神経症状が進行し強い麻痺をきたすことの多いBranch Atheromatous Disease(BAD)が注目されている。BADはラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の中間に位置付けされている。また、BADは抗血小板療法が期待されている。
・BADに対して選択的トロンビン阻害薬(アルガトロバン)や脳保護薬(エダラボン)などを使用して治療をしている。血小板の関与や血管収縮などの機序が関連している可能性があり、プレタールやペルサンチンなどの血管に作用する抗血小板薬が有用である可能性が考えられる。
★アテローム血栓症の実態と予防、治療の考え方
・脳梗塞や心筋梗塞は血栓が原因で発症するが、臓器別に考えるのではなく、全身病として考える必要がある。アテローム血栓症に対する抗血小板薬の役割について、臓器別ではなく全身性のアテローム血栓症として包括的に考える必要がある。
・抗血栓療法が血栓性疾患に対して予防効果を示すことは証明されている。しかし、最大の問題として、抗血小板薬及び抗凝固薬に共通しているのは、出血のリスクを伴うことである。血栓症に対するアスピリンの予防効果は有意であるが、出血リスクの問題も無視できない。また、用量を増やせば消化管の合併症も問題になっている。アスピリンは二次予防(再発防止)には高い評価を得ているが、一次予防にはリスク・ベネフィットバランスを考える必要がある。
・アスピリン単独とアスピリンとプラビックスの併用による治療を比較した大規模臨床試験の結果において、主要評価項目に有意差は認められず、出血リスクが増大する。2剤併用に限界がある。
・アスピリン+プラビックス群とアスピリン+プラビックス+プレタール群を比較した大規模臨床試験において、プレタールを併用した群は脳梗塞の再発を41.7%有意に抑制したにもかかわらず、出血性副作用の頻度を有意に増加させることはなかった。
・プレタールは抗血小板作用だけでなく、血管内皮機能改善作用がある。血管内皮機能の改善には高血圧や糖尿病にも良い影響を与えると考えられる。血栓症を抑制するには「血小板機能を直接的に阻害する治療」と、「血管内皮機能を改善して血小板の活性化を抑える治療」という二重の戦略が必要である。
・脳卒中危険因子は、高血圧、高脂血症、糖尿病がある。日本と海外での治療薬はかなり異なる。高血圧の治療薬は日本ではCa拮抗薬の使用量が最も多いが、海外ではβ遮断薬の使用量が最も多い。高脂血症の治療薬は日本ではスタチンの使用量は海外と比較して少ない。また、糖尿病の治療薬は日本ではSU薬の使用量が最も多いが、海外ではビグアナイト系薬剤の使用量が最も多い。治療薬の違いはあるが、日本での心血管の死亡率は海外と比較して、低いため、日本の医療の質は高い。
・パナルジンの重篤な副作用に肝障害があるが、肝障害が問題になっているのは日本だけであり、海外では肝障害はほとんど認められていない。この理由は日本人特有の遺伝子によることが判明している。プラビックスは肝障害の副作用は少ないと言われているが、海外データが多いため、日本では注意する必要がある。
・抗凝固薬についてはプロトロンビン時間を標準化した指標であるINRが有効治療域の決定及び出血予防のために用いられている。しかし、抗血小板療法において、抗凝固療法のINRに相当するマーカーを探索しており、血液中の可溶性マーカーたとえば血小板由来マイクロパーティクルなどの可能性に注目されている。抗血小板薬の有効性を評価するためにもバイオマーカーが必要である。