2008年2月研修記録
★ザイボックスの製品紹介【ファイザー㈱ 学術部より】
・ザイボックスは、2001年4月に国内初めてのバイコマイシン耐性腸球菌感染治療薬として承認され、その後、2006年6月にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の適用が追加された。
・ザイボックスには注射剤と錠剤があり、錠剤(国内初の抗MRSA薬)の生物学的利用率がほぼ100%であるため、静脈内投与から同量で経口投与に切り替えが可能である。なお、抗MRSA薬は硫酸アルベカシン(ハベカシン)、塩酸バンコマイシン及びテイコプラニン(タゴシット)はすべて注射剤である。
・ザイボックスは既存の抗MRSA薬と異なり、腎障害患者、肝障害患者、高齢者にも使いやすい。
・ザイボックスとバンコマイシンとの比較試験において、院内肺炎を対象とした臨床試験ではザイボックス投与群の方が有意に高い生存率を示した。この理由として、バンコマイシンの蛋白結合率が高く(80%以上)、また分子量が大きく組織移行性が劣るのに対し、ザイボックスは蛋白結合率が31%と低く、さらに分子量もバンコマイシンの1485.1に比して、337.35と遥かに小さく、組織移行性が高いことにより、十分な組織内濃度が確保できるためと考えられる。
★日本の院内感染症診療の問題点とその克服のための処方箋★
・院内感染は医師だけでは防ぐことができない。コメデカルである薬剤師、看護師、検査技師及び事務員等の協力が必要である。過去の院内感染を調査した結果、不注意な事例(手洗い、消毒、カビ対策など)もあり、約50%は防ぐことができた。
・日本の院内感染において、1970年代は緑膿菌が主流であったが、1980年代になり、MRSAが院内感染の主流になっている。MRSAは医療従事者の手指や医療器具を介して院内感染する場合が多い。
・院内感染した場合、抗MRSA薬を使用することになり、病院の経営が苦しくなる。その理由として、耐性化を防ぐために、厚労省は抗MRSA薬や第4世代セファロスポリンについて、使用しない又は使用量を減少すれば、病院の報酬(利益)が良くなる制度がある。
PK/PD理論に基づく感染症診療のあり方
・抗菌薬の効果的な投与量や投与法の決定にあたっては、抗菌薬の吸収、分布、代謝、排泄を示す薬物動態学(pharmacokinetics;PK)的指標と薬物濃度変化と抗菌作用の関係を示す薬力学(pharmacodynamics;PD)的指標をふまえたPK/PDパラメータが重要である。
・市販されている抗菌薬(バナン、クラリシッド、クラビットなど)は添付文書での用量では効果が不十分であり、用量を増やす必要がある。この理由として、軽症の市中肺炎を対象とした臨床試験で用量設定したためであり、重症の肺炎患者の用量設定が必要である。なお、ジスロマック及びアベロックスは適正な用量になっている。
・製薬会社は用量が少ない事実は確認しているが、用量を変更するには莫大な資金が必要になるため、用量変更の臨床試験が実施されていない。今後は海外データの利用や学会(医師)主導で用量を変更する必要がある。
・耐性化を防ぐには抗菌薬を使用しないことも重要であるが、適正な用量(低用量で長期使用しない)で短期間使用することが必要である。
・イタリアのミラノ大学で抗菌薬治療法にPK/PD理論を取り入れた結果、入院期間は16日から11日に短縮し、死亡率も10.9%から4.9%に減少した。